R01夏「奇跡」
昨年の夏、2年間の小学校勤務を終え、中学校へ戻ってきた。
ただソフトテニスの顧問としての役割は古巣大治で集大成を迎え、
今後は地域スポーツクラブとして、外から応援すると割り切っていた。
まさかもう一度、夏の舞台でベンチに座るとは夢にも思っていなかった。
昨年の4月、中学校へ戻ってきた僕は副顧問として赴任した。
あくまでも関りは部活顧問ではなく、クラブチームのコーチとして。
4月は教務という仕事に追われ過ぎて、ほとんど見ることができなかった。
初めて君たちをちゃんと見た試合は、ゴールデンウィークの宿泊遠征。
初めての練習試合が泊まりなんて…(笑)
まだ名前も知らなかった君たちの名前を紙切れに書いてもらった。
1日目、まずは試合を見ながらなんとなく性格を想像しながら名前を覚える。
2日目、ようやく名前を憶えて、少しだけ話をした。
3日目、探り探り会話しながら君たちが何を考えているかつかんでみる。
3日間の宿泊遠征は負け、負け、負け。こんなに負けたのは久しぶりだった。
でも、その3日間で僕は君たちに奇跡のカケラ(可能性)を見た。
底抜けに明るく、可愛げがあって、そして必死に声を出す。
僕が君たちを期待するのには、それで十分だった。
それからは本当に”激動”という言葉がぴったりの1年間だった。
休みみたいな休みはほとんどなく、毎日をナイターに明け暮れ、
土日の遠征は当たり前で、朝から晩までラケットを振り続けた。
「勝ちたいです」そう言った自分たちを何度も後悔しただろう。
勝負に徹すれば徹するほど、現実は非情に君たちを苦しめ、
友情だったと思っていた絆に、少しずつ少しずつ亀裂が入り、
それでも踏み入れた足を抜くことはできず、
重たい足を前に進むことしかできなかった。
辞めたいけど、辞められない出口の見えない日々が続く毎日。
ペアで悩んだり、チームで悩んだり、自分に悩んだり、
新人戦はまぐれの県大会ベスト8。この結果もまた自分たちを苦しめる。
何度も何度も、君たちの努力は努力じゃないと否定され、
毎日毎日、涙と汗を流しても結果はついてこない。
しかし、確実に着実に成長していく君たちを僕は誇らしかった。
学校での姿が変わっていき、学年の先生に驚かれたり、感心されたり。
はじめは少し叱られればブスっと拗ねていた君たちが、
少しずつ涙を流しながら、しっかりと人の目を見て話を聞くようになり、
誰も見ていないところで、ラケットを振っていたことを僕は知っている。
最後の最後まで、思い通りにならないことばかりだったが、
それでも歯を食いしばり、現実を受け止め、
前を向きコートに立つ君たちが愛おしかった。
こんな時代に、ひと昔前みたいに、
本気で努力ができる君たちが素晴らしかった。
最後の夏。新人戦、夏総体を県優勝する絶対王者、天王中学校を追い
海部地区、西尾張と準優勝で迎えた、運命の県大会。
必死で追いかけた東海は。県初戦、伝統校加木屋中学校がすべて。
1番勝負、何度も何度もセットポイントを握るが1点がなかなか取れず
2-4で負け(2-4,4-2,4-2,3-5,3-5,2-4)
2番勝負、加木屋に入ったスーパー1年生に奇跡の4-2勝利。
3番勝負、運命のかかった一戦もセットポイントを取らしてもらえず
1-4で負け(3-5,0-4,5-7,4-2,3-5)
素人たちの奇跡の挑戦はやはりジュニアの壁に跳ね返された。
個人戦も大将ペアが東海をかけた一戦で勝利を逃し、
激動の1年間はあっという間に幕を閉じた。
結果は奇跡は起こせなかったが、僕は君たち自身が奇跡だと思う。
君たちが残したもの、やってきたこと、すべてが奇跡だと思う。
一緒にコートに立ったのは、たった1年間しかなかったが、
人は1年間でこんなにも成長するんだと、感動した。
それでも最後に君たちに伝えておきたいことがある。
君たちは本当によく頑張った。
君たちの執念と信じられないくらいの努力は本当に素晴らしい。
でもそれは、苦楽を共にできた仲間たちがいたということ。
試合に出れなくても、どんなに悔しい思いをしていても、
まるで自分のことのように応援してくれた仲間がいたこと。
そして、それをいつでもどこでも支えてくれた親がいたこと。
君たちは頑張ったんじゃない、頑張らさせてもらえたってこと。
そして、君たちの活躍の裏にはたくさんの人を傷つけたことも。
そのうえで、君たちは素晴らしい。
残した結果ではなく、いつでも明るく前向きな君たちが。
どこに出しても恥ずかしくないくらいの可愛げが。
僕はもう諦めていたこの感覚を期間限定の1年間だけど
感じさせてくれた君たちが大好きです。本当にありがとう。
夢の続きはこれからです。
君たちなら必ず夢を叶えるはず。
この1年が、これからの君たちの人生を支えると信じている。
そして忘れてはいけない2人にも。
昨年、夢をつかんだあとの1年間は本当に苦しかったですね。
苦しくて苦しくて、苦しいだけと1年間でした。
小学生6年生で出会った君たちはまだまだ未熟で、
お世辞にも経験者というにはお粗末なくらいの技術で、
ジュニア時代はだれも君たちの名前は知らなかっただろう。
小学校赴任時代は僕は君たちの一番近くにいれて、
ナイターも一緒、土日も一緒、まるで部活のように一緒だった。
団体で東海大会出場という偉業をつかんだ昨年の夏。
僕が今の中学へ赴任し、WinMiも次第に美和中が中心に。
分かってはいたけど、なんだか捨てられた気がしていただろう。
美和の子たちが叱られれば叱られるほど、
あの頃みたいに自分たちも叱って欲しくて、
うまくいかない環境や自分たちにどうしようもなく腹が立ち、
一緒にやっていたほかの学校のWinMiメンバーたちは、
夏が近づくにつれて、みんな脱退していき、
気が付くと残った3年生は美和と君たち2人になっていた。
どうしようもない苛立ちとともに、夏の大会が始まった。
上手くいかない試合の連続で、何度も何度も諦めそうになり、
そしてつかんだ東海大会出場は、本当に素晴らしい。
昔、君たちに言った言葉を覚えているだろうか。
「『勝つ』ってことは楽しくない。」
誰よりも苦しみ、悩み、もがいた君たちだからこそ
夢舞台にもう一度立てたと、僕はそう思っている。
2年連続の東海大会出場なんて誰もができることじゃない。
どうぞ胸を張って欲しい。君たちは素晴らしい。
それから。最後に。
僕は君たちを捨てたいと思ったことは一度もない。
僕にとって君たちは4年間を一緒に過ごした大好きな教え子だ。
過ごした学校は違えど、君たちの悪いところも良いところも、
どうしようもなく腹が立ち、そしてどうしようもなく愛おしい。
本当にお疲れさまでした。また会おう。